1990年Ger,Schltz,Arreguiらが報告して以来現在にいたります。お腹に1~3か所の孔(あな)を開けてカメラと鉗子を挿入し、お腹の中の映像をテレビモニターで見ながら手術するのが腹腔鏡下ヘルニア修復術です。腹腔内から観察するため、ヘルニアの診断が容易であり、症状のない反対側のヘルニアも診断が可能です。
腹腔内到達法(TAPP法)は、お腹の中に二酸化炭素のガスを入れて、カメラを挿入してお腹の映像をテレビモニタで見ながら、ほかに2か所の傷(創:そう)をつけて、ここから棒状の器械(鉗子:かんし)をお腹に差し込んで手術を行います。腹腔鏡を用いてヘルニアの穴を確認して、腹膜と筋肉の間、腹膜の外側にポリプロピレン製の補強材、メッシュを固定します。腹腔鏡手術では鼠径部のヘルニアになりやすい5つの弱い部分(内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、外側三角部、閉鎖管部)を1枚のメッシュで全てしっかりと覆うことができます。従来の方法に比べてTAPPが優れている点は、痛みが少ないことです。しかし全身麻酔でないと施行できないという短所もあります。これからの手術の主流となると考えられ、当院でも積極的に本手術を行っています。
おなかの中から見た、
鼠径ヘルニア
腹膜を切開し、
鼠径部を露出します。
修復に使用する
3Dメッシュ・シート
メッシュ・シートを拡げ、
タッカーで固定します
腹膜を吸収糸で閉鎖します。
TAPPの長所
- 術後早期の疼痛が軽減します。(従来の手術に比べて何分の一くらいの痛みで済みます)
- 創が小さく美容的です。
- 慢性疼痛(1年以上)が減少します。
- 術後早期の社会復帰が可能です。
- 複雑なヘルニア(合併する複数のヘルニア、反対側のヘルニア)の診断が容易です。
- 両側ヘルニアでも同一創での手術が可能です。
TAPPの短所
- 必ず、全身麻酔で行う必要があります。
- 従来の方法と比較すると、手術時間が長くかかります。
入院期間について
当院では3泊4日入院を原則としています。手術前日に入院していただき、手術2日目に退院となります。
退院後はシャワー入浴が可能です。在宅療養は退院後3~7日必要です。
合併症について
手術的治療には、ある確率でそれにまつわる合併症は存在します。
- 出血
- 遅発性の出血もありますので、2週間ほどは無理な運動は避けてください。最近は、抗凝固剤、いわゆる”血をサラサラにする薬”を飲んでいる人も多くおられますので、その方々では特に注意が必要です。
- 感染、化膿
- 何ヶ月かしてから発症するものもありますので、創部の発赤や浸出液を認めた場合は、診察を受けましょう。軽いものは抗生剤等の内服や点滴で軽快することもありますが、処置や再手術が必要になる場合もあります。
- 創部の腫脹、硬結
- 術後の全ての方に観察されます。2週間から1カ月程度で軽快してきますが、完全に傷が平坦で柔らかくなるには半年から1年程要します。
- 違和感
- 特に医療用メッシュを用いた場合に感じられることがありますが、こちらも数カ月程度で軽快します。
- 術後の痛み(術後疼痛)
- 術後まったく痛まないということはありませんので、手術後には鎮痛剤を処方します。まれに、長期にわたる知覚異常や、神経痛様の痛みが残ることもありますが、これらも数カ月から半年ほどで和らいでいきます。
もし半年、1年しても気になるようでしたら、診察を受けてください。
- 再発
- 最近は医療用メッシュを使用することが多いので、再発率は低くなってきていますが、全ての手術患者さんの内で、約2~5%と推測されています。
- 反対側のヘルニアの発症
- 腹壁の脆弱性に起因した病態ですので、対側にも同様の現象は起こり得ます。しかしながら、手術を受けた方が、後日、対側の手術を受けるケースは必ずしも多くないことから、その確率は低いと推測されます。
- 漿液腫
- ヘルニアの袋が大きい場合には、手術部位に水が溜ることもありますが、1か月ほどで落ち着いてきます。自然に吸収されて消えることも多いですが、外来で針を刺して排液をする必要があります。
- 術後の慢性疼痛
- 一般的に、外科手術後に古傷が痛むといったようなことはあります。ヘルニアの手術であっても術後長期にわたって痛みが継続することがあります。
原因として、手術操作自体や手術に使用したメッシュ素材による鼠径部の神経障害が考えられています。
この術後慢性疼痛を回避するためには、手術中の確実な神経の同定と温存が推奨されていますが、確定的なものはなく、術前から痛みを伴うような方、年齢の若い方で特に女性、再発のヘルニア手術の場合、術後に感染や血腫などの合併症のあった方や両側のヘルニアを手術した方などに、術後慢性疼痛を起こしやすいといった傾向はあるようです。
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