日本乳癌学会により提示された科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドラインに則った治療を行っています。
科学的根拠に基づいた乳癌診療ガイドライン2022年版:金原出版株式会社
2011年第12回国際乳癌学会での乳癌サブタイプの定義と推奨される全身治療を主体に、また更に2年に一度、国際乳癌学会でのコンセンサス会議の結果も踏まえて、最新の治療方針を決定しています。
ホルモン受容体陽性乳がんでは、乳がんの増殖に影響するエストロゲンの体内での作られ方が、閉経前後によって異なるため、閉経の状況によってホルモン療法で使われる薬剤も異なります。
乳がんの一部には、細胞の表面にHER2という鍵穴のような蛋白があり、がん細胞の増殖に関わるタイプがあります。HER2蛋白が多く発現する乳がんをHER2陽性乳がんといい、再発リスクが高いと考えられています。
昨今の化学療法の高い奏功率を期待して、手術の前に約3‐6ヶ月間の化学療法を行うことで、ある程度の腫瘍の進展をコントロールした後に乳房温存手術等の根治術を行います。具体的な薬剤としては、内分泌・ホルモン療法剤のアロマターゼ阻害剤に、注射剤のタキサン系やアントラサイクリン系剤などを効果的に組み合わせる方法をとっています。特に、HER2陽性乳癌例には、分子標的薬(トラスツズマブ、ラパチニブ、ペルツズマブ等)を加えた治療が有効とされています。
術後薬物療法の目的は、浸潤がんに対し局所療法である手術では取りきれない微小転移をなくし、乳がんの再発を抑えることにあります。手術で切除したがん細胞について、女性ホルモンに対する感受性、HER2などの病理学的検査を行い、その結果に応じてホルモン療法と化学療法のどちらか、あるいは併用するかなどの治療計画をたてます。再発リスクがきわめて低いと判断された場合には、術後薬物療法を行わずに経過観察する場合もありますが、再発リスクがある場合には、リスクの程度に応じて術後薬物療法を行います。
ホルモン感受性(ER、PgR)、HER2タンパクの発現量や細胞増殖指標(Ki-67)により、病型分類が定義されます。
Intrinsic subtype | 臨床病理学的定義 | 特記事項 |
---|---|---|
Luminal A | Luminal A ER and/or PgR陽性 HER2陰性 Ki-67低値 |
Ki-67ラベリングインデックスは、約14%以下を低値とする。 |
Luminal B | Luminal B (HER2陰性) ER and/orPgR 陽性 HER2陰性 Ki-67高値 |
Grade等の腫瘍増殖指標も、KI-67の代替指標となりえる。 |
Luminal B (HER2陽性) ER and/orPgR 陽性 HER2過剰発現 Ki-67低~高値 |
内分泌療法、抗HER2療法が適応となる。 | |
Erb-B2過剰発現 | HER2陽性 (nonluminal) ER and/orPgR 陰性 HER2過剰発現 |
|
Basal like | Triple negative(乳管癌) ER and/orPgR 陰性 HER2陰性 |
Triple negativeとBasal likeは、約80%が一致する。 |
各病型別に全身治療が推奨されます。
サブタイプ | 治療 | 特記事項 |
---|---|---|
Luminal A | 内分泌療法±CDK4/6阻害剤 | リンパ節転移例では、化学療法が必要。 |
Luminal B (HER2陰性) |
内分泌療法±化学療法 | ホルモン受容体発現レベル、再発リスク等により、化学療法を考慮する。 |
Luminal B (HER2陽性) |
化学療法+抗HER2療法+内分泌療法 | 化学療法は必須。 |
HER2陽性 (nonluminal) |
化学療法+抗HER2療法 | |
Triple negative (乳管癌) |
化学療法±抗体薬療法 | 遺伝子診断も有用 |
特殊型 A.ホルモン反応型 B.ホルモン非反応型 |
ホルモン療法 化学療法 |
管状癌、粘液癌等 髄様癌、アポクリン癌等 |